【オリジナル短編小説】最強の用心棒の秘密。

私のミッションは、依頼主を守ることだ。

ありとあらゆる外敵から依頼主を守る。

そのためには、手段を問わない。

そして、依頼主からの命令は絶対だ。

「ただいま」

……来た。

依頼主から、待機命令が出て、約9時間00分。

依頼主が私の領地テリトリーにやってきた。

「ごめんね。遅くなって。ご飯を今あげるね。」

……報酬だ。

待機命令を9時間00分も遂行した私に、依頼主はいつも報酬をくれる。

私は、この至福な時をずっと待っていたのだ。

ああ、この依頼主を守っている、命令を守っている甲斐があるというものだ。

「お腹空いていたの?ごめんね。でも、もっとゆっくり食べてね。」

……ゆっくり食べる?冗談じゃない。

俺は命を狙われている。依頼主もだ。敵から身を守るため、警戒しなければならない。

ご飯を食べている姿は、非常にスキだらけだ。

敵にスキを見せてはならない。

だから、俺は早くご飯(報酬)を食べる。

さあ、ご飯(報酬)の後は、パトロールしに行こう!私有地テリトリーに危険物がないか。外敵がいないか。パトロールするのだ!

「ああ、散歩ね。ちょっと待ってね……」

私は領地テリトリーをパトロールしている。

さあ、全ての危険物を排除しよう。

鳥……危険だ。

空からの攻撃フンは非常に危険だ。

防ぐ手段がない。

だから、事前に追い払ってしまう。

犬……危険だ。

もしかしたら依頼主が噛み付かれるかもしれない。

だから、私が威嚇し、追い払う。

しかし、向こうも威嚇し、睨み合いが続く。

大抵、向こうが折れ、逃げていく。

それで良い。賢明だ。

私を敵に回して良いことはない。

さあ、安全を確保した。

次は、マーキングだ。

私がマーキングすることで、ここが私の私有地(縄張り)ということを敵に知らしめるのだ。

こうすれば、賢明な生物は近づかないだろう。

仕事を終え、帰宅する。

久しぶりに依頼主が私を抱いて、寝た。

こうしていると、昔のことを思い出す。

私は家でも外でも依頼主を守っている。

それは、解雇され、捨てられた私を拾って、育ててくれたせめてもの恩返しだ。

3年前。私は元依頼主に捨てられた。

元依頼主のことも一生懸命守ったつもりだ。

だが、どうやら努力が足りなかったらしい。

解雇され、捨てられた。

ダンボール箱に入れられた。

何日そこにいたかわからない。

今の依頼主に拾われたのは、雨の日だった。

冷たい雨の中。依頼主と目があった。

人間不信に陥っていた私を、優しく抱いてくれた温もりを、今でも覚えている。

今の依頼主が私を拾い、衰弱していた私を守ってくれたのだ。

だから、今度は、私が依頼主を守るのだ。

昔以上に、守るのだ。

もう、あんな思いはしたくない。

救い出してくれた依頼主の役に立ち、懸命に努力するのが、私の使命なのだ。

あれからしばらくたち、私はいつも通り、依頼主を守っている。

守られていたから、守っている。

しかし、私は依頼主の笑顔が好きだ。

いつも笑っていてほしい。

だから、依頼主が悲しんでいるときは、時にはミッション「依頼主を笑わせろ」になる。

ミッションは時と場合によって、変わるのだ。

今日はターゲットが泣いている。

だから、今のミッションは「ターゲットを笑わせろ」となる。

私はありとあらゆる事をして、主人を笑わそうとした。

しかし、依頼主は一向に、笑ってくれない。

そして、泣きながら、依頼主はこういった。

「……ありがとう。ポチ。」

私はかな子。26歳。

私には可愛いペットがいる。

「ただいま。」

私がこういうと、いつも尻尾を振ってお出迎えしてくれる。

「ワン!ワンワン!!」

今日は、上司に怒られた。

だから遅くなった。

だけど、どんなに遅くなってもポチはいつも出迎えてくれる。

だから、仕事も頑張れる。

この子のご飯のために。

この子の生活のために。

私はどんなに嫌なことがあっても頑張れるんだ。

「ごめんね、遅くなって、ご飯を今あげるね。」

ご飯をあげると、ポチはすごい勢いで食べ始めた。

ああ、ごめんね。私が遅くなったばっかりに、お腹が空いていたんだね。

「お腹空いていたの?ごめんね。でも、もっとゆっくり食べてね。」

ポチはご飯を平らげると、何か言いたそうに私を見て、ワンと鳴いた。

「ああ、散歩ね。ちょっと待ってね……」

散歩はちょっと億劫だ。

ポチが他の犬とすれ違うといっぱい吠えるし、ハトやカラスを見ても吠える。

吠えた後は、トイレをそこら辺でしてしまう。

もちろん後片付けは私がやる。

……、だけど、手がかかるペットほど、愛おしいと感じる。

家に帰った私は、久しぶりにポチを家に上げ、抱っこして寝た。

今日はポチと一緒に寝たい気分だったのだ。

嫌なことがあった。

それを忘れさせてくれる。

私にとってポチはかけがえのない存在だった。

あの日、ポチと初めて出会った日。

冷たい、雨の日だった。

その時、私は、彼氏に捨てられた。

「別れたい」

そう告げられ、理由を教えてくれなかった。

私は納得できなかった。

せめて、理由があれば納得できたかもしれない。

でも、その一言を捨て台詞のように残し、音信不通になった。

雨の中の帰り道、私はいつも通らない道を遠回りして帰った。

雨に濡れたかったのと、誰もいない家に帰りたくなかったのだ。

そんな時、ポチと出会った。

ポチは今にも死んでしまいそうにガリガリにやせ細って、弱っていた。

そんなポチが、私をじっと見ていた。

その目は、何かを訴えていたようだった。

私はその時、運命を感じた。

私と同じように捨てられてしまった、犬。

今にも死んでしまいそうな犬。

この犬を守ろう。

そう思って、この犬を抱きしめて、動物病院に駆け込んだ。

そこからは、怒涛の日々だった。

元気になった犬を、ポチと名づけた。そのポチがいろんなトラブルを巻き起こすのだ。

全く、元彼氏のことを考えている暇なんてない。

でも、私にとっては、ちょうど良い忙しさだった。

それに何より、家で私を待っていてくれるポチがいる。

そのことが、私にとって生きる糧になっていたのだ。

「……!」

「……る…だ!」

「お…るんだ!」

「起きるんだ!」

私の脳内にそう声が響き、びっくりして起きた。

「え?誰!?」

私は起きて、あたりを見渡した。

しかし、人はいない。

いるのは、ポチだけ。

「寝ぼけていたのかな?」

私はそう思うと、ポチに餌をあげた。

すると……。

「今日も美味だな。」

そう声が脳内に響いた。

まるでその声はポチの気持ちと連動しているかのように思えた。

……まさかね。

私は目を覚まそうと顔を洗い、仕事へ行った。

「じゃあ、行ってきます。待っててね。」

「待機命令だな。了解した。」

また声が聞こえた。……私はおかしくなってしまったのだろうか。

仕事から帰り、ポチと再開した。

「ただいま!ポチ!」

「待機命令を遂行した。報酬を求む。」

やっぱり声が聞こえる。幻聴なのだろうか。だけど、ポチの声のようにも聞こえる。もしポチの声なら、そんなに悪い気はしなかった。以前から、ポチの気持ちは気になっていたからだ。……報酬?餌のことだろうか。

「……ご飯ね。はいどうぞ。」

「美味!美味!」

「それでは、パトロールに行こう!依頼主の危険を排除しにいくのだ!」

パトロール……散歩のことだろうか。

依頼主は……私のことだろう。

少し億劫だった散歩。

その散歩は、ポチにとって、「私を守る」ための行為であり、精一杯自分のできる範囲で私を守ってくれている。

ポチの声が聞こえ始めてから、気づいたことだ。

家に帰り、せっかく声が聞こえるようになったので、ポチと話してみた。

「ポチは今、幸せ?」

「……依頼主が珍しく私に話しかけている。しかし、その答えは簡単だ。もちろん幸せだ。依頼主と一緒にいる。それが私の全てであり、私の存在意義だ。」

「……なぜ、ポチはそんなに私を守ろうとしてくれるの?」

「それは、依頼主が弱っていた私を守ってくれたから。だから、恩返しに今度は私が守りたい。」

「……ポチは、私のこと、好き?」

「もちろんだ。恩人であり、依頼主であり、守るべき尊き存在。私は、依頼主のことが今も好きだし、これからも好きであろう。」

「……。」

私は言葉に詰まって、涙を流してしまった。

ここまでポチが私のことを思っていてくれたのが、素直に嬉しかったのだ。

そして、ポチの心の声が聞こえる。

今度は、泣いている私をみて、励まそうとする気持ちが伝わったのだ。

ああ、私は幸せだ。

身近にこんなに自分を想ってくている家族がいるなんて。

だから、私はその家族にこう言った。

「……ありがとう。ポチ。」

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